May 8, 2017

落語入門したくなったら/『この落語家を聴け!』



広瀬和生『この落語家を聴け!(集英社文庫、2010)

落語入門したいと思っていた6年ほど前、お話作家の杉山亮さんがブログでおすすめされていて手にとった本。

熱気をおびた筆致……という言葉がぴったり。
落語デビューしたいと思いつつ、「とりあえず寄席へ」という気になかなかなれなかったのは、やっぱりちゃんと理由があったんだとわかりました。
「誰を」聴くかが問題……という広瀬さんの言葉に、ガッテンガッテン

そんな折り、ご近所のホールで「志の輔らくご」が開かれるという情報が。
『この落語家を聴け!』によると、最初に聴くなら、志の輔。
初めての人にも「落語って面白い!」と思わせる、わかりやすい魅力があると書いてありました。

チケットが発売されたのは東日本大震災の直後。
予定がどうなるかわからない状態でしたが、これも何かの縁。
と、チケットをとったところ、前から二列目の席。
そこで2011年4月5日、行ってまいりました。

この日のまくら(演目前の短いお話)も地震にまつわる話から始まりました。
また、海外での入国のエピソードでは、ふところからスッと取り出した手ぬぐいがちゃんとパスポートに見える。
さりげない所作にも落語の技術を感じました。

この日の演目は、成田近くのちいさな商店街を舞台にした新作落語。

舞台間近の席のおかげで志の輔さんの表情もよく見え、商店街の会長さんの人なつっこい表情が声と相まっていきいきしていて、舞台から目が離せませんでした。
落語は声を聴く芸能と思っていたけれど、目でも楽しめるものだったとは。

なぁんにもない舞台に身体ひとつ。
なのに、さびれた商店街の景色が見えてくるようで不思議でした。

高座に着物姿という佇まいからは、身体の奥行きというか、ふところの深さのようなものが感じられて、そのことにも感動しました。
テレビ中継では体感できなかったことでしょう。

演目が終わった拍手のあとも、志の輔さんは少し話をしてくださいました。
(ここでも地震にまつわることでした)

このときは、演目のときとはちょっと違ったトーン。
こじんまりしたホールとはいえ400人ほど相手の観客に向かって、まるで70㎝ほどのところにいる人に話しかけるように、距離を感じさせない、会場全体を包み込むような話し方でした。

「しゃべりのプロ」を感じました。
人に伝える仕事をしている人は学ぶときっといいと思います。
(とくに政治家のひとたち)
もちろん話す内容あってのことですけれど。

この本に出てくる落語家への評価をどう見るかは人さまざまかもしれません。
私には相性がよかったようで、この本片手にまたあの空間を楽しみに出かけたくなる……そんなガイドブックとなりました。