April 27, 2017

朝を感じる絵本/『あさになったのでまどをあけますよ』



荒井良二『あさになったのでまどをあけます(偕成社、2011)

ページを開くごとに、朝の光と空気、朝日のあたっている新しくてあたたかい感じ、自分が暮らしている(暮らしていた)場所や旅先で見かけた朝の光景、そのとき感じた空気まで思い起こす。

手描きのタイトルや文章も語りかけられてる声のよう。
荒井良二さんからのプレゼントのよう。

荒井さんがイラストから絵本の世界へ重心を移していったとき、わざとこわれた絵を描こうとしているような印象を持ってしまっていたのだけど、ここでは正面から絵がとびこんできた。

絵の力に、おなかの底まで呼吸が行きわたるような、ストンとした感じになる。

今朝、心の中で口ずさむように「あさになったのでまどをあけますよ」と、窓を開けた。


April 17, 2017

本音で書かれたガイドブック/『一度は泊まりたい有名宿』



岩佐十良『一度は泊まりたい有名宿 覆面訪問記(朝日新書、 2013)

かつて魅力ある温泉特集をガンガン組んでいた、雑誌『自遊人』の編集長・岩佐十良さんが、取材ではなく個人名で予約して、普通に宿で過ごして書かれた原稿ばかり。

以前泊まったことのある修善寺のあさばや、野沢温泉の住吉屋も紹介されていて、「そうそう、そうだった」と共感することが多かったのでした。

宿選びのガイドとして役立つのはもちろんのこと、ありきたりの宿紹介と違って、読みものとしても面白いです。

数年前、この本を読んで訪れたのが、
信州は鹿教湯(かけゆ)温泉の山水館

部屋で供される手作りパイ、
木曽から移築した古民家、
秋のたっぷりキノコ鍋、
シンプルなアメニティなどなど……にひかれて行ってまいりました。

アメニティグッズはすがすがしいくらい一切無駄なものがありませんでした。
部屋も、お風呂にも。

よぶんなものがないのは、最初ほんのちょっと落ち着かないけれど、
じわじわとそれが心地よくなってきました。
この体感は、不思議と忘れがたいものとなりました。

あさばや住吉屋のときのように、納得の宿 。
「来てよかった」「また来たい」と思ったのでした。


April 7, 2017

ちょっとそこまで大散歩/『野武士、西へ』



久住昌之『野武士、西へ 二年間の散歩(集英社、2013)

東京に住む散歩好きの久住さんが、ふと「大阪まで散歩したい」と思いつき、行けるところまで行って、電車で帰ってくる。
次はまた電車でそこまで行って続きを歩く……。
と、ちょっとずつ大阪に向かって歩いた、二年にわたる大散歩の記録です。

「へー、そうなんだ」
「くっくっく」
しょっちゅう声に出してはこの本を読んでいた夫の様子を見て、なになになに? と無性に気になったのが手にとったきっかけです。

読み始めると……散歩の情景が思い浮かんできて、 私もおのずと声(もしくは笑い声)の出る箇所が頻発。

ルポならではの迫力。
だけど、かろやか。
テンポよく続く短めの文章が心地よいです。

歩き続けているうちに、広重の描いた「東海道五拾三次」と風景が重なるのを体感したという話にも、時空を超えた風景がそこに見えてくるようで、感動したのでした。