May 21, 2017

プロになる道筋はいろいろ/瀬川晶司『泣き虫しょったんの奇跡』



瀬川晶司『泣き虫しょったんの奇跡 サラリーマンから将棋のプロへ(講談社文庫、2010)

プロ棋士になるには、奨励会日本将棋連盟プロ棋士養成機関)を経て、26歳までにデビューするのが王道コース。

奨励会時代、あと一歩のところで届かず、プロ棋士の夢をたたれた瀬川晶司さんは、その後、サラリーマン生活をしながらアマ名人戦やプロの公式戦で快進撃を続け、プロ棋士への道を切り拓いた人。日本将棋連盟がアマからプロへの挑戦を認めるきっかけを作った人です。

その瀬川さんが自ら綴った、生い立ちから35歳でプロデビューするまでの話。
瀬川さんの文章はすっと体の中に入ってきてとても読みやすく、将棋に興味のない方にもおすすめしたいです。

なかでも小学校時代の恩師、苅間澤大子(かりまさわ・ひろこ)先生のエピソードがとても素敵です。

始業式で初めて子どもたちと顔を合わせた先生が出した宿題は、「きょう家に帰ったら必ず、おうちのひとに〈今度の担任の先生は若くてきれいな人だ〉といいなさい」

子どもたちをあだ名で呼んだり、ときどき教室で一緒にお菓子を食べたり、図工の時間に、家から好きな絵を持ってこさせ、それを逆さまにして模写させたり。
(絵の苦手だった瀬川さんは逆さまの絵を模写することで、かえって集中して描くことができて、クラスの子どもたちからもその絵を「一番いい!」と言ってもらったそうです)

「人が悲しいときに寄り添ってあげる友だちよりも、その人が喜んでいるときに、よかったねと一緒に喜んであげられる友だちになってほしいな」
授業の合間に先生がしてくれたいろんな話も心に残ります。

プロ棋士になれるかどうかの対戦のさなか、先生から突然届いた葉書に書かれていた言葉は、思い出すたび、目の前がパッと明るくなります。

瀬川さんのプロ挑戦にまつわる、羽生善治さんのエピソードも忘れがたいです。
一流のひとはやっぱり違うと、さりげなくも感服しました。