June 30, 2017

事実は推理小説より興味深し/『おかしな二人 』



井上夢人『おかしな二人 岡嶋二人盛衰記(講談社文庫、1996)

作家志望でもなかった二人の男性が「江戸川乱歩賞に応募してみよう(印税も魅力的だし)」と、岡嶋二人 (おかじまふたり)というペンネームで推理小説を書き始め、7年目にして受賞。プロの作家としてデビューし、28冊の本を出し、コンビを解消するまでの18年を、二人のうちのひとり、井上夢人さんが綴ったエッセイ。

宣伝文には「ファン必携の一冊」と書かれていましたが、推理小説どころか小説さえほとんど読まない私ですが、勢いとまらず読み進みました。

ひとりがアイデアを出し、ひとりが文章を書く……という役割分担がいつしか定着。どんなふうに作品が作られていったかという話は推理小説を読むように面白かったです。

その役割分担が二人の小説を生み、やがてコンビを解消する導火線にもなっていくのだけれど。
いちばん最後の「おわりに」の文章は、読むたび泣きそうになります。

実際にプロになってからが大変。
それまでのストックが役に立ったという話もうなずきながら読みました。


June 20, 2017

「せんせい」を描いた名作自伝コミック/『かくかくしかじか』



東村アキコ『かくかくしかじか全5巻、集英社、2012〜2015)

漫画家・東村アキコさんの自伝コミック。

藤子不二雄Aさんの『まんが道』しかり、漫画家になるまで(と、なってから)の話というのは、臨場感あふれていて面白いです。

自分のことをきれいに(格好よく)見せようとしていない、包み隠さなさ感が痛快です。女性には珍しいタイプかもしれません。
とはいえ、自分が大好き!な性分も心得ていて、そんな客観性がエンターテイメントにつながっているとも感じました。

昔、群ようこさんのエッセイを読んだとき、やはり自分を飾らないたんたんとした語り口が不思議と心に残り、こんなふうに書けたら(強いだろうなぁ)と憧れたことを思い出しました。

このマンガでは、美大受験のとき通った、宮崎にある絵画教室の、日高健三というスパルタ先生と過ごした時間のことがたくさん描かれています。

この日高先生が強烈な魅力を持った人物。
美大を受験する方や、絵を描いている方には直球でおすすめしたいですが、そうでない方も、ぜひみなさん、読んで読んで。

私は読むたび声を出して笑っています。
そして泣けます。

単行本の最終巻には、日高先生が表紙に。
読み続けてきた者にとってはものすごく美しく感じる表紙です。
発売されたとき、書店で「日高せんせい!」と声に出して、手にとりました。

June 10, 2017

言葉に意識を/『カネを積まれても使いたくない日本語』



内舘牧子『カネを積まれても使いたくない日本語(朝日新書、 2013)

ここ数年、テレビを見ていて、政治家のヘンに丁寧な言葉遣いが気になっていました。(例えば「お示しする」などなど)

また、10数年くらい前から、あるスポーツ選手がインタビューに応じているときの「〜とは思います」という言い方がかなり気になっていました。

「〜と思います」でいいのに、なぜそこに「は」をつける? と。
この言い方、とみにそこココで耳にするようになりました。

この本では、気にかかっていたことや言われて気づいた言葉の使い方が、あれもこれもとスパッと出てきます。
政治家の丁寧な言い回しや「〜とは思います」についても書かれていて、合点がいきました。
妙な気遣いや、責任を逃れるような曖昧な言い回しが増えているご時世が見えてきて、おもしろいです。

「言葉は生きものであり、時代とともに変化するもの」(「前書き」より) で、どんな言葉に違和感や不快感を持つか、人の感覚はさまざま。
そう心得たうえで、人前で話したり、文章を書く人(ネット上のものやメールも含めて)におすすめしたい、読んで損はない一冊だと思います。