August 26, 2017

終末期をどう過ごすか/『穏やかな死に医療はいらない』



萬田緑平『穏やかな死に医療はいらない(朝日新書、2013)

大学病院で手術や抗がん剤治療に力を注いでいた外科医から、在宅緩和ケア医に転身した著者。

両方の(真逆の)現場を経験してきた著者ならではの、終末期をどう過ごすかの話が響いてきます。

医療は、医学の技術を発揮することが一番の目的ではないと思います。
医師も、家族も、治療を優先して考えるのは、患者のためを思ってのこと。
でも、本人がどう生きていきたいかが、一番大切。

以前は、家族に何かあったとき、延命治療をして出来るだけ長く生きていてほしいと思っていたものでした。
でも今は、家族だけでなく自分も、不自然な治療はせず、自然に終わっていく選択肢があると考えるようになりました。
この本を読んでさらにそう感じました。

なんといっても、緑平さんの文章がとてもいいのです。

たとえば、終末期が近づいて食欲がなくなってくると、「こんなに食べなかったらもう死んでしまうのでは」と、患者さん自身も家族も不安になります。
でも、食べることが苦痛になるのは身体からのサイン。
老化(枯れてゆくこと)は死へのソフトランディングで、身体から余計な荷物をおろしているというのです。

いくつもハッとするわかりやすい表現に出会えました。

病気とつきあう機会は突然やってくることがあります。
そんなとき、治療についての互いの考えを受け入れあえるよう、自分はどうしてほしいか話し合う準備の時間があっていいと思います。
家族で読んでおきたい一冊でもあります。


August 15, 2017

朗読の世界すらもマンガになった/『花もて語れ』



片山ユキヲ『花もて語れ(小学館、全13巻、2010〜2014)

働く人のお昼ごはんを紹介するNHKの「サラメシ」。
以前、わたくしの故郷が取り上げられたことがありました。

ナレーションの中井貴一さんの口から慣れ親しんだ地名が。
そのトーンが滋味あふれていて感動してしまった。
声で、一言で、 人をこんなに感動させることができるなんて。

ずいぶん前に録画したままになっていた、NHKの「世界ふれあい街歩き」のフィンランド編を見たときのこと。
田畑智子さんのナレーションが、ほんとにその場をてくてくお散歩しているようだった。

田畑さんは子役の時から演技が上手いと評判だったけれど、こういうことが自然に(見えるように)できるなんて、やっぱりただものではないってことですね。
中井貴一さんもしかり。

朗読をテーマにしたマンガ『花もて語れ』。

朗読というのは、間違えずに読むこと、適切なところで抑揚をつけること……なんてことが大切なのではなくて。
語っているのは、本人なのか、第三者なのか、それとも……。
語りの視点をどこに置くかで物語の世界が違って見えてくる立体的なものだと、朗読の奥の深さを伝えてくれる、ほかにはないタイプのマンガです。

中井貴一さんや田畑智子さんのナレーションを聞いていて、このマンガで知った世界が重なりました。


August 6, 2017

土地の言葉の美しさ/『月影ベイベ』



小玉ユキ『月影ベイベ(小学館、全9巻、2013〜2017)

ノリのよい関西弁が小気味よかった『ナッちゃん』に続いて、土地の言葉が印象的なマンガ、『月影ベイベ 』をご紹介します。

富山の伝統行事「おわら」を題材にした高校生が主人公の青春ストーリーなのですが、おわらの踊りの所作の美しさや、これまで身近に聞く機会がなかった富山の言葉にも味わいを感じます。
「ゆっくりしとられ」と、わが家でも使ったりしています。

おわらを愛する地元の高校生、光(ひかる)がまた、なかなかにチャーミング。
私の中で、マンガに出てくる魅力的な男の子、3本の指に入ってます。
(あとの二人は、『宇宙兄弟』の六太と、『俺物語!!』の砂川となっております。地のよさを感じさせてくれる男の子・勝手にベスト3なのです)