January 25, 2018

基本は楽しさ!/『東村アキコ完全プロデュース 超速!! 漫画ポーズ集』



東村アキコ『東村アキコ完全プロデュース 超速!! 漫画ポーズ集(講談社、2017)

普段から、イラストの参考になりそうな資料(雑誌の写真など)はストックしています。実際に人にポーズをとってもらい、写真をとって描くこともあります。

以前、あるポーズ集を書店で見たとき、描く気がそそられなかった覚えがあって、ポーズ集は使ったことがありませんでした。その点、この本には、そういう違和感がありませんでした。モデルとポーズの選択からスタイリングまで、東村さんによるもの。

ちょうど仕事で参考になるポーズがあったので、取り入れて描いてみたところ……出来上がったラフを人に見せたら、「なんかいつもと違う。 動きがある!」と、ほめられました。早速、役に立ってしまいました。

と、ポーズ集なわけなのですが、巻頭の、この本を作るきっかけを語った漫画だけでも、お金を出す価値ありと思いました。

頭身と骨格を決めて、肉付けしていくという、オーソドックスな漫画の描き方があるようなのですが(東村さんは「ロボット設計図」と呼んでいました)。
そのやり方で自分の作品を描いているアシスタントを見た東村さんは言います。ネーム(ラフ)では伸びやかだった線が、本番では固くなり、しかも時間がかかっている。

上手いけど時間がかかって固い絵より、下手でも速く描けてのびやかな絵の方がいい。ロボット設計図で描くより、写真を見て描いた方がいい。速く描いて、その分たくさんマンガ(ストーリー)を描いた方が若いうちは力がつくとすすめているのです。
設計図方式で描いてて楽しい人や、上手く描ける人、それが自分の絵に合っている人は、もちろんその方法でOKということも、ちゃんと言っています。

ところが、Amazonのレビューを見てみると、この巻頭漫画でアシスタントをバカにしていると感じた人が少なくないようで、びっくりしました。私はむしろ、アシスタントへの、絵を描くのが好きで漫画家になろうとスタートした人たちへの愛情を感じたのですが。

漫画やイラストでは、それらしく見えることが大切と思ってます(ごまかして描けという意味ではないです)。
正確さが要求される絵の場合は、もちろん正確さ優先で。ただ、正確さを追求することにとらわれて絵がいきいきしていなかったり、必要以上に時間がかかる方がいいと言い切れません。

普段は立ち入ることができない漫画家の仕事場にカメラを設置して、制作の秘密をさぐる「浦沢直樹の漫勉」。この番組で、東村さんの制作現場を見ましたが、ネームも仕上げも速かった。しかも、描くのが楽しそうだった!

東村さんの自伝コミック『かくかくしかじか』で、美大受験のため通った絵画教室で、スパルタ恩師のもと、毎日ひたすら手(と眼)を動かしつづけた話を読んでいたので、何本もの連載を並行している東村さんの筆の速さ、仕事ぶりに説得力を感じるのでした。


〔関連記事〕
「せんせい」を描いた名作自伝コミック/『かくかくしかじか』


January 5, 2018

暮らしの知恵を感じる写真絵本/『干したから・・・』



森枝卓士『干したから・・・ (ふしぎびっくり写真えほん(フレーベル館、2016)

お日さまたっぷり浴びて、パリパリになった果物が散りばめられている表紙。ドライフルーツ好きには小躍りしたくなるような、愛らしさです。

私たちの身近にあるものから、世界の市場で見つけたものまで、様々な「干したもの」が出てきます。

シイタケ(干しシイタケ)、大根(切り干し大根)、柿(干し柿)にブドウ(干しブドウ)に小魚(煮干し)……生のときと干した後では、見た目も味わいも、まるで別物のよう。そう、ふだんは同じものと意識せず、別のものとして楽しんでいたことに気づきました。

干した野菜には栄養がたっぷりとはよく耳にする話。お日さまをたくさん浴びた野菜は、干したあとの布団のよう。お日さまの香りがしてくるようで、直感的にも、生の新鮮なときとはまた違った美味しさを感じます。

「干す」ということは、「水分をぬく」ということ。水分があると、カビなど小さな生きものがくっついて、そのまま放っておくと腐ってしまうからです。

まだ冷蔵庫のなかった時代、野菜や魚を干すことは、食べ物を少しでも長く保存するための工夫のひとつでした。

私たちにとって身近な、あんなもの・こんなものも、年に一度収穫されたものを干して、毎日食べられるよう工夫されていたことに改めて気づかせてくれる、子どもも大人も楽しめる写真絵本です。


December 15, 2017

こんなお店(会社)があったとは/『サイゼリヤ革命』



山口芳生
サイゼリヤ革命 世界中どこにもない“本物”のレストランチェーン誕生秘話(柴田書店、2011)

前回、ご紹介した『未来食堂ができるまで』。
未来食堂の店主・小林せかいさんの、いろんなタイプのお店でつんだ修行話も、とても面白かったのです。
なかでもサイゼリヤの話は印象的でした。実際に現場を経験して、「すごい」と思うことが多々あったようです。

サイゼリヤが、科学的・合理的な視点で価格や店員のオペレーション(仕事の手順・動作)など、経営に反映させている会社だと新聞記事で読んだことはありました。
そこで、サイゼリヤのことを知りたくなって、『サイゼリヤ革命』を読んでみました。

ふつうは原価をもとに価格を決めていくけれど、サイゼリヤでは「手頃な価格でお客さんにイタリア料理を楽しんでほしい」と、まず価格設定してから、どうコストを近づけていくか取り組んできたのだそうです。
お手頃価格で有名なお店ですが、お客さまに提供したいコンセプトがしっかり。

これも前々回ご紹介した『マーケット感覚を身につけよう (ダイヤモンド社、2015)の中の、「先に考えるべきはコストではなく、市場で認知される価値の大きさ」という話とつながって、目からウロコでした。

ある店舗が繁盛したら、忙しさで従業員が疲弊しないよう、すぐ近くに新店舗を作ってお客さまの数が集中しないようにしたり。
ある動作を2回繰り返すのと1回ですむのとでは、従業員の疲労が違ってくるからと、無駄な動作をしなくてすむよう考えられたオペレーションのマニュアルが作られていたり。
お客さまに喜ばれることはもちろん、働いている人たちに、気持ちよく仕事してほしいと考えられた仕組みも素晴らしかったです。

なにより、創業者の正垣泰彦さんが魅力的な人物。
お店を始めて店舗を広げてゆく数々のエピソードといい、おいしい素材を提供するために農場を開拓し、日本の産業(農業の改革)へも目を配る視野の広さまで、正垣さんの地力を感じる一冊でした。


December 8, 2017

自分で作ってしまおう/『未来食堂ができるまで』



小林せかい『未来食堂ができるまで(小学館、2016)

ある日、新聞広告で見かけて、なんだなんだ? どういうことだ? と気になった本。『ただめしを食べさせる食堂が今日も黒字の理由小林せかい、太田出版、2016)

神保町(東京)にある未来食堂というお店が舞台のようです。
そこで、この本の前に出ていた、小林さんの『未来食堂ができるまで』を読んでみました。

店主の小林せかいさんが、未来食堂を立ち上げるまでを記録したブログをもとに作られた一冊です。

お店をつくろうと思ったその始まりのことから、いくつかの飲食店での修行話、物件さがし、お店をこしらえるまで、そしてオープンしてからのこと……。

未来食堂のことを伝えたい気持ちと、お店を始めたいという人にも参考になればとの想いもあって、いろんなことがつまびらかに書かれています。
実際、お店を始めたい人にとって、具体的に参考になりそうです。

始まりと経過の記録は臨場感があって、とても面白かったです。
事実がフィクションより面白いのは常のこと。
そう言っておいて、矛盾した言い方になるけれど、よくできているマンガを読んでいるようなワクワクする面白さがありました。
飲食店を始めたいと考えている人以外にとっても、仕事についてのヒントをもたらしてくれる本だと思います。

カウンターの12席を一人できりもりする店主のお手伝いをすると、一食分が無料になる「まかない」という仕組みがまた独特なのですが、「まかない」をしてくれる人のために書かれたガイドがきちんとマニュアル化されていて、それも巻末に公開されていて面白かったのでした。


December 1, 2017

発想を変えて/『マーケット感覚を身につけよう』



ちきりん
マーケット感覚を身につけよう 「これから何が売れるのか?」わかる人になる5つの方法
(ダイヤモンド社、2015)

「マーケット感覚」というと、特定の人に向けた本と思われるかもしれませんが、ネットの普及が生活を変えつつあるこれからの時代。
フリーランスの人にも、企業に勤めてる人にも、公務員の人にも(地方自治体に勤めてる方から官僚まで)、じつにあらゆる職業の人に幅広く通ずる本だと思います。

実際に、仕事への行動が変わる発想をもたらしてくれました。
社会派ブロガー・ちきりんさんによる書き下ろし。
身近な事例をもとに世の中の見方がパラッと変わります。


November 24, 2017

コミックエッセイでマラソン入門/『マラソン1年生』

  

たかぎなおこ『マラソン1年生』『マラソン2年生
(KADOKAWA/メディアファクトリー)

マラソンを始めるようになった、たかぎなおこさん。
日々の練習から、レースに参加したときの臨場感あふれるお話までがたっぷり綴られたコミックエッセイ。

ジョギング(練習)もいきなり始めるのではなく、早足で30分歩けるようになったら……を始める目安にするといいとか、靴やウェア選び(「ランスカ」かわいい)から大会エントリー&ホテルの手配の心得などなど、マラソンの世界を具体的にあれこれ知ることができて面白かったです。

ホノルルマラソンに参加したり、与論島のマラソンに参加した際には映画「めがね」のロケに使われていた宿に泊まったりと、旅ものとしての楽しさも味わえます。マラソン大会に参加するというくっきりした目的があるので、旅ものプラスの面白さを感じました。

なんと、あるマラソン大会では、『マラソン1年生』を読んでマラソンを始めたという読者の方から声をかけられるという素敵なお話も『マラソン2年生』で出てきます。

海外のマラソン大会に参加した『海外マラソンRunRun旅』、日本各地のマラソン大会に参加したグルメ情報もたっぷりの『まんぷくローカルマラソン旅』も、えっ、こんな大会があるの? というユニークなものがあったり、おすすめです。

マラソンはしませんが(散歩はします)、楽しくてすいすい走り抜けるように読み進みました。



November 17, 2017

やってみてわかること・始まること/『恋愛呼吸』



服部みれい・加藤俊朗『恋愛呼吸(中央公論新社、2013)

書店で手にとってページをめくってみると……のちに呼吸法を教わることになる加藤先生との出会いが綴られた、みれいさんの「まえがき」が面白く、とまらなくなりました。

「願いがかなう呼吸法」を実践した二週間後に(今回のみれいさんの願いはパートナーに出会うこと)、ほんとうに結婚が決まったみれいさん。
Amazonのレビューを読んでみると、この本を読んで呼吸法を始めたところ、結婚が決まった人や数週間でモテ始めたという人が続々。この勢いある感じが、これまた面白い。

本の中に登場している加藤先生がまた、魅力的な方なのです。
呼吸法を実践して結婚が決まったという、みれいさんが創刊した雑誌『マーマーマガジン』(現在の誌名は『まぁまぁマガジン』)の読者の方のお話も、フラットでとても素敵でした。

呼吸を試すもスルーするも、それぞれの自由。
でも、やってみようかな。
そう思えるタイミングがやってきたときは扉が開いたとき。
ちょっとした違いが実は大きな違いのような気がします。
そんなことを感じさせてくれる読者の方のお話でした。

わたしも2年ほど前から、自分に合った本に出会えて、ある呼吸法を続けています。
身体と気持ちがかなりラクになった実感が。
人生の第二ラウンドが始まった気分です。

そんなこともあって、本のタイトルの「呼吸」という言葉に目が止まって、書店で手にとったのでした。
私がやっている呼吸法と、この本に出てくる方法とは少し違うけれど、エッセンスは共通しています。

ちなみに、呼吸にまつわる話でよく「丹田」という言葉が出てきます。
その言葉が出てくるといつも、それってどこだぁ?と、ちょっと面倒な気分になっていたのですが、今回は「おへそから約9cm下」と書いてあるのを読んで、実際におへそにメジャーを当てて場所を確認してみました。

たしかにおなかの下の方を意識して呼吸すると、肝がすわるというか、より落ち着きます。
これも、定規を当てるという行為をするか見送るかは、些細なことのように見えて、実は小さくない!と思うのでした。